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歯科衛生士の現場から

被災地の役割(熊本県)

コロナ禍での大規模災害歯科保健活動について

柳本 喜恵子さん 公益社団法人 熊本県歯科衛生士会 人吉・球磨郡市支部長

新型コロナウイルス感染症が蔓延する中で発生した令和2年7月豪雨災害は、熊本県南部に甚大な被害をもたらしました。私が住んでいる人吉・球磨地域は、球磨川の氾濫により避難所は最大で41か所、1807人の方が避難されました。今回、熊本県歯科医師会と平成25年12月に締結した「大規模災害時の災害支援活動に関する協定」に基づき取り組んだ災害歯科保健活動についてご紹介します。

令和2年7月豪雨災害歯科保健活動内容

1.新型コロナウイルス感染症対策を講じた歯科保健活動

災害歯科保健活動当日は、熊本県発行の「被災地で活動する際の感染防止対策チェックリスト」に参加者全員が記入し活動を開始します。住所・氏名・連絡先・健康状態(検温)・感染防止対策に同意する内容です。活動終了後に活動報告書と感染防止対策チェックリスト全員分を歯科衛生士会に提出します。

2.避難所における口腔衛生用品の点検・補充と誤嚥性肺炎予防啓発ポスター掲示

発災直後は、避難所の数が多かったため歯科医師会と歯科衛生士会で2、3人のチームを作り、チームごとに避難所を1~3か所巡回しました。新型コロナ感染症対策で避難所内に入る際は、受付で許可を受けてから避難所内に入りますが、居住スペースに入ることはできず、活動は共用スペースに限定されました。口腔衛生用品の点検と補充、誤嚥性肺炎予防のポスター掲示やリーフレットの配置、歯磨きスペースの確認やラピッドアセスメント調査も巡回時に手分けして行いました。

3.ラピッドアセスメント調査

発災直後は、ラピッドアセスメント票(集団・迅速)を毎週調査し、約1か月後には2週間おきに調査しました。感染対策で把握できないところは、避難所管理者に尋ねてアセスメント票に記入するとともに避難所管理者にも口腔衛生の必要性を伝え、被災者のお口の状態を意識してもらえるような取り組みも行いました。アセスメント票の記入方法について、始めはよく理解されていない状況でしたが、できるだけ詳しく記入するよう申し送りをして改善しました。

4.歯科相談所の開設

歯科相談所の様子歯科相談所の様子

避難所の数は日を追うごとに集約され、最終的に41か所から5か所に集約されました。歯科相談所は、発災約2週間後に収容人数100名以上の大規模避難所2か所(人吉市と球磨村)に開設し、歯科医師1名と歯科衛生士1~3名で被災者の気持ちに寄り添いながら対応しました。コロナ禍だったため避難所内での歯科対応ができなかった部分を歯科相談で補うことができたと思います。

5.医療ニーズに対する応急診療スペースの設置

避難所が開設してすぐに義歯を流された高齢者などの応急的な歯科診療を受けるケースが数件ありました。避難所内が騒然としている時期で歯科診療スペースは通路の奥や居住スペースの隅など手洗い場もないところでの診療を余儀なくされました。歯科診療スペースは、歯科医師会と避難所管理者(行政)が相談し避難所内の事情を考慮して、臨機応変に場所の変更をしながら設置されました。このような対応に、多くの被災者から喜びの声を聞くことができました。

6.感染対策用歯科衛生指導ツール「マスクをしたままできるお口の体操」の動画制作協力

「マスクをしたままできるお口の体操」の実施「マスクをしたままできる
お口の体操」の実施

日本歯科衛生士会、日本災害時公衆衛生歯科研究会の協力のもとに作られたコロナ禍にも使える歯科衛生指導ツール「マスクをしたままできるお口の体操」をA3サイズの紙媒体資料にして、避難所や仮設住宅での歯科衛生指導に使用しました。

https://www.jdha.or.jp/topics/jdha/c/501/general/

また、避難所内の個別スペースで各自の携帯電話を見ながらひとりで口腔体操ができるようにするため、熊本県歯科衛生士会で「マスクをしたままできるお口の体操」のYouTube動画を制作しました。(リーフレットに二次元コードを貼付し動画を視聴)

https://www.jdha.or.jp/entry/training.html(7分30秒)

7.「令和2年7月豪雨災害における復興リハビリテーション活動」事業の登録と活動

復興リハビリテーションの実施復興リハビリテーションの実施

熊本県復興リハビリテーションセンターが開設され、歯科衛生士も登録し、センターからの派遣として仮設住宅における歯科保健活動を行いました。平成28年熊本地震の際には、歯科衛生士への依頼はなかったので、今回、活動依頼があったことにより歯科保健活動の必要性を認められたことや避難所から仮設住宅に移られた高齢者の方へオーラルフレイル予防に関する情報発信ができたことをたいへん嬉しく思いました。

新型コロナウイルス感染症が、重症化する怖い感染症という認識の中で災害が発生し、災害歯科保健活動もこれまでと違う制限がかかりました。コロナ禍に伴う制限の中、熊本地震における活動経験や多職種の方々が口腔ケアの必要性を理解してくれたことにより、避難所だけの歯科保健活動に終わることなく、仮設住宅においても継続して災害歯科保健活動が実施できて良かったと思っています。歯科衛生士会による災害歯科保健活動が災害関連死トップである誤嚥性肺炎やオーラルフレイルの予防に繋がっていくことを願い、これからも地域歯科に貢献していきたいと思っています。