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歯科衛生士の現場から

介護老人保健施設での仕事

介護老人保健施設に勤務する歯科衛生士として

松尾 由佳さん 介護老人保健施設「鴻池荘」 奈良県歯科衛生士会

私は2011年より、介護老人保健施設に勤務しています。

訪問歯科衛生士を養成する講習会のインストラクターとして介護老人保健施設に受講生の歯科衛生士を連れて実習に訪れたことがご縁で、入職することになりました。

勤務先の介護老人保健施設「鴻池荘」は、奈良県の南部、御所市にあります。介護老人保健施設(以後、老健施設)は中間施設と呼ばれ、長く過ごしたり、看取ったりするための場所ではありません。急性期の入院生活の後、リハビリテーションをして、在宅をめざしていただくための施設です。当施設は、近隣ではリハビリテーションに特化した施設として知られています。

同じ敷地内にグループホーム(18名)・有料老人ホーム(24名)があり、秋津鴻池病院(内科・精神科 645床)も併設されています。

鴻池荘は、1階デイケアセンター(通所:定員100名/日)2~4階は入所フロアで各フロア50名入居されています。2階は認知症専門棟、3階は要介護3~5の病態者の多いフロアです。4階は比較的自立度が高く、短期で自宅復帰を目指す長谷川式認知症検査(HDS-R)30点満点中20点台の方が10名近くおられます。

医療法人 鴻池会は、さまざまな職種のスタッフが600名勤務していますが、歯科衛生士は多くの職種の中で最後に雇用された職種であったため、「最後にきた職種」と称されました。米山武義先生の「誤嚥性肺炎予防における口腔ケアの効果」が老年医学会学術集会で発表されて、歯科衛生士の雇用が急がれたようです。

歯科衛生士の所属について

現在、歯科衛生士は4人いますが、雇用にあたり歯科衛生士の所属について検討されました。①看護部の所属として、誤嚥性肺炎予防の口腔ケアを一人でも多くの利用者に実施することを業務とするか、②リハビリテーション部の所属として、言語聴覚士と嚥下評価をしたり、また「整容」のひとつとして口腔ケアが、どのレベルまで利用者に指導できるのかを上肢の可動域とケア動作の評価を理学療法士と実施すること、そして歯ブラシやケア用具の使用方法を記憶したり、手順の理解について作業療法士と評価するなどを業務の中心にするかの2つの案がでました。最終的に検討の結果、歯科衛生士はリハビリテーション部の所属となりました。その際にリハビリテーション部長が「歯科衛生士は、口腔ケアのマンパワーでなく、評価者である」と言ってくださったことが老健施設での私の業務の原点であったと思います。鴻池荘に入職しなければ、会話を交わすチャンスのなかった職種との協働がスタートしました。

歯科衛生士が来てから業務量が増えたと言われないように

老健施設の介護業務の中心は、介護福祉士、ケアワーカーの方々です。排泄・入浴・食事介助など、介護福祉士の業務量は膨大です。それに加えて歯科衛生士が入職したことで、食後の口腔ケア、または就寝前に義歯洗浄剤に義歯を浸漬する、起床後は充分に水洗し義歯を口に入れるという業務が個別のケアプランに上がるのですから、いろいろ質問が出ました。

表_施設における多職種連携

そこで、介護度・利用者個別の能力の聞き取り、口腔ケア介助の方法と介入方法、ケア用具の統一、一日に何回介入が必要かという頻度をリハビリ職も交え、話し合いました。1フロア50名のうち、毎食後にケア介入する対象者は15人以上の場合は清掃不良者や気管支・肺疾患既往者を中心に実施する、すべての利用者に対しては、1日1回は介入するなどの細部調整をしました。

研修会や現場で口腔ケアのデモ(実演)をして、多職種の口腔ケアに対するハードルを低くすることに努めました。それに合わせて、週に1度は必ず自身の担当フロアの利用者の口腔を確認すること、現場でどの職種に質問されてもすぐ対応することを歯科衛生士の「マイルール」としました。

苦戦したのは、2020年からの新型コロナウイルス感染者が増加し、隔離体制をとりながら、口腔ケアは従来どおりの頻度で継続していくという態勢でした。欠勤者が出ているフロアの支援体制にも応じながら、現場で「個別の介入頻度」を守るケアを継続しました。

さまざまな取り組みを行う中で、入職3年目に、鴻池荘内の誤嚥性肺炎の発症率が60%減少しました。老健施設に、歯科衛生士が必要な職種だと認めていただくことができました。

老健施設での歯科衛生士の役割

口腔機能管理(通所)

  • 通所利用者の口腔内評価(残存歯・義歯、補綴物・舌・粘膜の状態、清掃度)

口腔衛生管理(入所)

口腔ケア画像

  • 入所時口腔内の評価(残存歯・義歯、補綴物・舌・粘膜の状態、清掃度)
  • 口腔機能評価(舌の動き・うがいの動き・口唇閉鎖)、口腔ケア用具の選定、使用方法の指導、介助量の評価、口腔衛生加算の算定
  • 必要な治療を勧奨、協力歯科医(訪問診療)への依頼・診療時の補助
  • ミールラウンド
  • 多職種・家族とのカンファレンスの参加
  • 退所時(在宅・他施設・入院など)の必要なサマリーの作成
  • 新人スタッフ(介護士・多職種)教育

主な業務は、ほぼ担当フロアで実施しています。

私たちの業務のゴールは、誤嚥性肺炎を防ぐことだけでなく、利用者に、食事をおいしく食べていただき、歌ったり、話したり、生活を楽しんでいただくことです。

そのため、多職種と協働し、「最後にきた職種」としての責務を果たしていきたいと考えています。